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11月25日(金)に開催されたシェアリングエコノミーのすべてが分かる国内外初カンファレンス<シェア経済サミット>。『世界のシェアリングシティ』と題して行われたパネルディスカッションでは、「シェアリングシティ」の先進事例として、オランダのアムステルダム、韓国のソウル市の取り組みを発表。イベントの前日には千葉県千葉市、静岡県浜松市、長崎県島原市、佐賀県多久市、秋田県湯沢市による「シェアリングシティ宣言」もあり、世界に先駆けて本格的な人口減少社会に突入している日本社会にとっての具体的なビジョンとなり得るのか、という点に注目が集まりました。

人口集中が課題となっている大都市や、逆に過疎化に悩む地方都市が抱える問題の内容は実に様々。イベントレポート第2弾では、サスティナブルな社会を実現する世界のシェアリングシティの先進事例を紹介しつつ、日本流のカスタマイズや可能性について探っていきます。

オランダ・アムステルダム
成功の鍵は“まずはやってみるというポジティブな姿勢”

世界初のAirbnbに適用する規制を作った都市でもあるアムステルダムは「shareNL」という非政府機関が中心となって、シェアリングシティを推進しています。パネルディスカッションでは、「shareNL」の創設者で、世界中のスタートアップ、企業、都市、政府、NGOや研究機関でアドバイザーも務めるハーマン・ファン・スプラン氏が登壇。アムステルダムならではのユニークなアイデアや取り組みについてスピーチしました。

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▲「shareNL」創設者・ハーマン・ファン・スプラン氏

「すでに行われている事例としては、カーシェア、ミールシェアなどがあり、使っていない船の利用や3Dプリンターをより広範囲で利用する取り組みも始まっています。また、計画段階ではありますが、介護や風力発電の分野でも、起業家は自治体の協力を得て動き出そうとしています。アムステルダムは小さな都市の割に混雑している。そこで、”シェアポート”つまりエアポートをシェアしようという試みも始まっています。他にもKLMが古い機体を改造してAirbnbとして活用しています。アムステルダムはそうした企業や政府の支持が多いし、EUの協力も得られています。今のアムステルダム市民の88%の人たちがシェアリングエコノミーに参画したいと考えていて、学ぶこと、シェアすることに前向きな市民の資質も大きいと思います」

スプラン氏は「アムステルダムの人々は街をプレイグラウンドとして捉え、まずはやってみようという気質」が“シェアリングシティ・アライアンス”を構築していると説明。市民と政府、企業間でプランを共有できていることも、それに起因しているという印象を受けました。

韓国・ソウル
“行政による積極的な推進と協力体制”で民間とのネットワークを構築

ソウル市は政府が積極的にインフラ整備やスタートアップ企業への出資を行なっています。具体的な事例をソウル市イノベーション局長の全烋寛氏から紹介されました。

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▲ソウル市イノベーション局長・全烋寛氏

「ソウルでは2012年にシェアリングシティ委員会を発足し、その後、事業として博覧会やカンファレンスを実施する他、若者のために共有経済学校を設立しました。また、空港を解放して駐車場としています。その他にも”Mumm Car”というカーシェアリングや、子供服やおもちゃ、たまにしか使わない生活工具の共有、市内100箇所の共有図書館の開設などが定着しています。ソウルならではの取り組みとしては、ハウスシェアとしてお年寄りが所有する空き部屋を大学生に提供しています。時にはともに時間を過ごし、お年寄りが寂しくないよう生活できるというメリットもあり、異世代間の交流も同時に果たされています。」

ソウル市は政府、企業、学校などが民間とネットワークを構築していることが強みになっていると言えます。70年代の急激な経済発展による交通渋滞、90年代以降のIT化による若者へのネガティヴな影響、例えばネット依存や引きこもりなどが社会問題として存在するソウルでは、シェアリングシティを行政が前面に立って推進、協力するスタイルが基盤となっていることが伺えます。

“サスティナブルなビジネスモデル”と日本人が変えるべき“マインド”

ディスカッションの後半では日本が今後取り組むべき課題について、国際大学GLOCOM准教授・主任研究員の庄司昌彦氏と、経済産業省 商務情報政策局審議官の前田泰宏氏を交えたトークセッションで課題をあぶり出していきます。

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▲国際大学GLOCOM准教授・主任研究員の庄司昌彦氏

庄司日本の大都市では観光客のための民泊や、タクシー業者不足なのでライドシェアを行うなどの対症療法的な取り組み。今後その方法ではなくシェアリングシティを立ち上げて、継続していく上で大事なことはなんでしょう?

スブランシェアリングシティのエコシステムというのは、まず自分たちの都市が抱えている問題をあぶり出す、交通なのか、介護なのか、何が起こっていて、何がないのかを理解することが大事です。

韓国では中央政府とシェアリングシティの価値を共有できているんですね。なので、まず自治体で制度を確立して地方政府と共有していくことが大事だと思います。

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▲経済産業省 商務情報政策局審議官の前田泰宏氏

前田シェアリングサービスは良いことだとわかっていても、疑問点があると思います。一つ目はビジネスとして成立するのか? また、トラブルの解決方法はあるのか? この2点が、これから取り組もうとしている地方都市の課題であり、不安ではないでしょうか。

確かに他のスタートアップに比べ、サスティナブルな事業なので投資は多くなります。しかし、若者の社会参加は国の将来につながるというメリットもある。例えば事業が成立していない会社には政府がインフラを提供して援助する事例もあります。もちろん、シェア経済への転換期なので社会的な討論は必須だし、その都度、問題を考えていく必要はあります。

スブラン儲かるか儲からないかより、継続可能なビジネスモデルを作ることが大事だと思います。トラブルはもちろん無いとは言えない。ですが、アムステルダムでは既存の企業も市民がシェアサービスを使う状況を見て、行動が変わって来た。これまでの企業も動かざるを得ないのではないでしょうか。

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庄司採算性で言えば儲かるビジネスではないと。ではサスティナブルであることに重きをおくと、そのビジネスは広範囲なものでないといけない。ということは大都市で取り組むことがビジネスに繋がっていくとも言えますね。そして新しいシステムが始まる時、日本人はトラブルに及び腰すぎるという印象も。海外の方を見ていると、トラブルが起これば話し合えばいいんだというスタンスを感じます。

前田まだ取り組んでいないからこそ、ビジネスの芽はあるし、問題はその都度、解決すればいいということですね。日本流にシェアリングシティをカスタマイズしていくとすれば、すべてを個人でやるのではなく、行政を入れることで経済的なサポートを得られたり、トラブルの回避にもなるかもしれない。いずれにしても、“シェアリングシティは一過性のトレンドではなく実証なんだ”、そういう世界になりつつあるということは明快です。

世界のシェアリングシティは似て非なるもの。その国や街のニーズと気風に沿ったものであることが前提であることを、今回のスピーチで実感しました。元来、自由で起業家精神に溢れ、街そのものも自由な気風があるアムステルダムと、ここ40年で急激に都市として経済発展したソウルでは必要とされるサービスも違えば、サービスを維持する母体が個人なのか、行政なのかも当然違ってくることが分かります。ただ、大都市で共通している問題は、東京でも交通=カーシェア、空間=ハウスシェアなどが挙げられるでしょう。加えて、社会問題になっているフードロスの解決策としての食品のシェアはビジネスとしてのポテンシャルも大きいように感じられました。また、東京への一極集中を避ける動きとして、例えば『福岡移住計画』など、現実に動き始めている個人のスタートアッパーも存在し、また漠然と「都会を離れ、田舎で仕事をしよう」というビジョンを持っているワーカーもいるのも事実。その際、田舎でも必要なシェアサービス、例えばカーシェアや空間のシェアなど、生活のための“ゆるいシェア”が実現すれば人口減少社会でも新しい形のコミュニティが生まれ、維持できるのでは? と感じました。何れにしても「まずはやってみる、問題の洗い出しはそこから」というマインドが日本でシェアリングシティを継続する鍵かもしれません。

Photo by Kayo Sekiguchi