”ほしい未来”をつくるためのヒントを共有するウェブマガジン「greenz.jp」編集長、兼松佳宏(かねまつ・よしひろ)氏が語る「シェアサービス」の現状と課題。

「シェアサービス」を考える上で重要なコンセプトは4つ、と語る兼松氏。前編で取りあげた【1】「歓待」としてのシェア 【2】「循環」としてのシェア、に続く残りの2つのキーワードについて掘り下げます。

前編:他者と出会うことで、より“大きな自分”と出会う。 – greenz.jp編集長が見つめる、シェア時代の本質と未来。

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【3】「地元意識」としてのシェア

「シェアサービス」がもたらす4つの根源的な変化、3番目は【地元意識】です。

これはモノをシェアするために、実際に何かを移動させなくてはいけない状況を想像してみるとわかりやすいと思います。たとえば、「イベントで冷蔵庫を使いたいから貸して欲しい」となったとき、県をまたいでの移動となると非現実的ですよね。

距離が近いということは、それだけで物理的にハードルが低い。それはそのまま、年配の方や子どもなど、あまり行動範囲が広くない人でも参加の可能性が高まることを意味します。

もしくは、移動するにしても、自分が移動するのではなく向こうに来てもらう、という考え方も面白い。たとえば、『マネジメント』で有名なピーター・ドラッカーが90歳を過ぎても最前線の話題を書くことができたのは、最前線の人たちがドラッカーのもとに遊びに来ていたから、という逸話があります。

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地産地消の考え方も同じですよね。以前、「greenz.jp」で横浜市・関内にある「mass×mass(マスマス)」というコワーキングスペースを紹介したことがあります。(※『小屋を並べたシェアオフィス「TENTO」が守りたいのは、横浜の水源!「mass×mass」森川正信さんが挑む、都会から地域課題を解決するしかけ』

「mass×mass(マスマス)」では、間伐材を利用した小屋をいくつも並べたコンパクトなシェアオフィス「TENTO(テント)」という新しい取り組みを始めています。

その間伐材は、神奈川県山北町の森林に転がっている、市場価値のない丸太から生まれたもの。実は山北町の森林は、管理が行き届かずに近い将来、地すべりや土砂崩れなどの危険性を抱えています。その一方で、横浜はこの山北の森林で育まれた水を取水している、という現実もあります。

そこで、シェアオフィスを山北町の森林から採取した間伐材でつくることで、「“横浜で働くこと=横浜の水源を守ること”になったら素敵じゃない?」という構想を思い描いたんだそうです。つまり、「mass×mass(マスマス)」では、仕事空間にとどまらない、地域とのつながりというより大きなストーリーを共有しているといえます。

余談ですが、僕の知り合いに京都大学の伊勢武史先生という方がいて、気候変動や生態学の専門家なのですが、彼は「もっともエコな活動はレジ袋を減らすことよりも、飛行機に乗らないこと」と言っています。

飛行機がロサンゼルス・東京間を飛ぶ際に出すCO2と、何十万枚のプラスチック袋を使わないのとは、ほぼイコールなんだ、というわけです。

シェアサービスが広がることで「移動しない」「留まる」という選択肢が、ポジティブなものになるといいな、と思うんです。私たちはずっと、手元にない何かを求めて移動してきた。でも、「実は、近くにこんなにもあるんじゃん!」と、シェアサービスを使うことで、気付く人が増えていくのかなと。

【4】「地球意識」としてのシェア

最後に取りあげるのは、ある意味で「地元意識」とは真逆の、でも根底では通じている【地球意識】です。

これに関しては、「greenz.jp」で紹介した「Children’s Land(チルドレンズランド)」の話をしたいと思います。(※『自分のためにオレガノを、おじいちゃんのために薬草を!子どもに”土地を任せる”ことで環境意識を育む「Children’s Land」』

「チルドレンズランド」は、子どもたちに畑を持ってもらう、というとてもシンプルなプロジェクトです。それが今、国連からもサポート受けて全世界に広がっています。

この活動では、畑を作る際に「自分のため」「家族や他の誰かのため」「自然のため」という3つにわけて土地を管理しています。

たとえば、ピザが大好きな男の子がいたら、自分はオレガノを乗せたピザが食べたいからオレガノを育てます。でも、おじいちゃんが最近元気ないから、別な畑では薬草を育てます。最後に残った畑は、チョウチョのためにお花を植えます、といった感じです。

この活動に取り組むペルーの非営利組織「ANIA」の設立者であるホアキンさんという方が、こんなことを言っています。

「子どもたちはこうした活動を通じ、健全な自尊心とは、外見や持ち物、地位などから来るものではなく、『自分以外の命あるものを幸せにする力』が大切なんだと気づくでしょう」

つまり、「自然のための畑をつくる」という行為によって、何気なく暮らしていたら気付くことのないさまざまなつながりに気づくことができ、人間以外の生命との共生を強く意識できるようになるんです。

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先ほど紹介したように、これからの世の中、「シェア」の概念を推進していけば「移動する」という行為は減っていくと考えられます。でも、地域にとどまることでグローバルな感覚や自然の感覚を失うんじゃなく、「基本は皆、つながっているよね」という感覚をそれぞれのローカルで取り戻していく。その集合意識のアップデートに、希望を感じます。

「シェアサービス」で生まれる新しい徳目

ここまで、【1】歓待、【2】循環、【3】地元意識、【4】地球意識、と4つの視点から「シェア」を考察してきました。

シェアサービスが当たり前の選択肢となることで、ホストとして「歓待」する機会が増え、人と人のつながりが育まれていく。そうやって他者と出会うことで、むしろ自分の可能性が拡がり、コップから溢れた部分を社会に「循環」させていく。そうしてローカルには「地元意識」が、グローバルには「地球意識」が芽生え、社会的な絆が強まっていくとともに、未来の可能性が広がっていく。

よく「持続可能な社会の実現!」といいますが、それはこういう不可逆的な、奥深い変化の上に成り立つものだと思うんです。シェアサービスがこれからどんどん増えていくと、「もう『シェア』のない世界になんて戻れない!」という人も増えていくと思いますよ。

時代やテクノロジーの変化は、必ず新しい「徳目」を生み出します。徳目とは、時間を守るとか挨拶をするとか、いろんな歴史を経ていつの間にかあたり前になった約束、と言い換えることもできると思います。

「歓待」があたり前のものになれば、小学校の頃から近所の人たちを招いてパーティをする、みたいなのが普段の景色になるかもしれないですよね。

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いろいろ話をしてみましたが、結局のところ「シェアサービス」って社会のお守りなのかもしれませんね。

たとえば、「子育てシェア」のサービスの「AsMama(アズママ)」も、子育てをしていない人にはそのありがたみはわからないかもしれないけれど、「AsMama」があるおかげで、実際に使わなくとも選択肢があるだけでホッとする、という親御さんもきっと多いはず。

とにかく、シェアは本質的な変化だからこそ、いい意味で時代に乗っかりすぎず、コツコツとできることを続けていくことが大事なのでしょうね。「Share! Share! Share!」の周辺から様々なお守りが生まれていくのを、楽しみにしています。

この記事の登場人物
  • 兼松佳宏
    greenz.jp編集長/NPO法人グリーンズ理事 1979年生まれの勉強家 兼 お父さん。2004年よりウェブデザイナーとしてNPO支援に関わりながら、「デザインは世界を変えられる?」をテーマに世界中のデザイナーへのインタビューを連載。 CSRコンサルティング企業に転職後、2006年クリエイティブディレクターとして独立し、ウェブマガジン「greenz.jp」の立ち上げに関わる。2010年より編集長。秋田市出身、京都市在住。一児の父。 2016年より京都精華大学人文学部の特任講師として、「ソーシャルデザイン・プログラム(社会創造演習)」を担当予定。
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