世界の家庭料理を旅しよう

“作りたい人”(COOK)と”食べたい人”(HIKER・ハイカー)をつなぐマッチングサービス“KitchHike”って、知っていますか?

COOKは自分の手料理に値段をつけて(最低10$から)メニューを登録し、HIKERは食べたい料理を見つけて予約。予約が確定すれば、当日COOKの自宅でKitchHikeを楽しめる、というシンプルなもの。まさにhitchhikeするように、未知の家庭料理に出会えるという素敵なサービスなんです。

ですが、食卓を通して様々な文化を体験できるという一方で、”初対面同士”、”自宅で”というキーワードに、多少なりとも不安を覚えるのもまた事実。サービスを実際に利用してみないと見えてこない点でもありますよね。

そこで今回は、イタリア・フィレンツェ出身の女子キアラさんがつくる手料理を、女子ライター宮田がKitchHikeしてみたいと思います。

待ち合わせ場所に現れたキアラさんの飾らない美女っぷりにおののきつつも、さっそくお話を聞いてみました。

友人を招くように、ハイカーを受け入れてみた。

待ち合わせ場所から歩くこと10分。キアラさんに招き入れられたのは、いい匂いが漂うアパートの一室。スパイスが所狭しと並ぶキッチンで、さっそく料理にとりかかります。

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トスカーナ出身のキアラさんは、日本に来て今年で4年目。交換留学で訪れた日本に魅了され、そのまま残ることを決意。

そんなキアラさんがKitchHikeをはじめたのは、2015年5月のこと。facebookの広告でKitchHikeの存在を知り、ただただ楽しそう!という好奇心から登録したのだそう。

「ふだんから、友人を呼んで手料理をふるまうことが好きなんです。ですが友人もそう頻繁に来るものではないので、そんな機会がもっと増えたらいいなという思いではじめました」

COOKになるには、自分の手料理の写真と紹介文をアップロードし、KitchHike事務局の承認を得るだけ。掲載がスタートすれば、あとはHIKERからの予約を待つのみと手軽で、思い立てばすぐにでも参加できます。

「知らない人を招くということに不安がないわけではないけど、それよりもHIKERに喜んでもらえるようなメニューを考えたりと、楽しみのほうが大きいんです」

メニューを考える過程から、「シェア」が始まる。

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COOKのおもてなしは、メニューを決めることからはじまります。特別な希望がなければ、HIKERの好き嫌いを聞き、季節に合わせたメニューを考えるのだとか。

キアラさんのこだわりは、日本のイタリアンレストランでは食べられない、ちょっと珍しいメニューを提供すること。そんなメニューに惹かれてか、料理を手伝いたいと申し込んでくるHIKERも多いと言います。

「手伝いたいというHIKERがゲストの場合、メニューにも一工夫必要です。たとえばパスタであれば、パスタ生地はあらかじめ作っておいて、すぐに成型できるように整えておきます。待ち合わせ時間も早めますし、その他のメニューも短時間でできるものに変更しています」

現地出身者の本場の料理をお手伝いすると、出来上がった料理をただ頂くよりも断然深い異文化理解ができる。世界の食卓を旅するHIKERに人気だというのも、うなずけます。

不安を解消するためのアレンジが、さらなる広がりを生む。

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「知らない人を招待するのに、あまり抵抗はない」と話すキアラさんですが、それでも時と場合によっては不安を感じることもあるのだそう。

「COOKに比べHIKERが公開している情報は少ないので、顔写真も登録されていないHIKERからの予約には少し緊張します。なので、なるべく何人かのHIKERを同じ日程に調整してもらい、1名でのKitchHikeは受け入れないようにしています。こうすることで、コースの料理が余ることもなくなりますし、自宅へ他人を招き入れるという違和感も解決できました。他人同士でも同じ食卓を囲んでいるうちに、HIKER同士が意気投合したりと、一回一回がより味わい深いKitchHikeになっているように感じます」

問題解消のために始めたWブッキング。COOKの不安解消以外に、HIKERも一度のKitchHikeで触れられる文化が増えるというメリットもあるようですね。

大興奮!初めて尽くしのイタリア家庭料理。

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20分もせず、本日のメニューすべてが食卓に並びました。今回は撮影のため全て揃えてもらいましたが、ふだんはHIKERの食べるスピードを見ながら、一番おいしいタイミングで提供できるようコース料理にしているそう。

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食べなれたイタリアンとは一味も二味も違った料理ばかりで、思わず声が上がります。お手伝いをした分、思い入れもひとしおです。

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付け合わせのリコッタチーズと柿のジャムは、なんと手作りだというから驚きです。チーズって、つくれるんですね。爽やかでついつい食べ過ぎてしまいます。

「リコッタチーズは日本で買おうとして値段にびっくりしてしまって(笑)自分でつくれないかと作ってみたら美味しく作れました。作るときは一度にまとめて作ることが多いですね。パンも、時間のある時にフォカッチャなど数種類をまとめて作り、冷凍保存しています」

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「ジャムは柿、リンゴ、オレンジ、マンゴーにスパイスを加えたものです。イタリアの実家に送るので、今回は少し多めに作りました。」

柿のジャムは初めていただいたのですが、スパイスが効いているおかげか、大人なお味。気に入りすぎて、ちゃっかりお土産に頂いてしまいました。マスキングテープでデコレーションされた瓶がまた可愛らしく、マネしたい欲が刺激されます。

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前菜は、ほうれん草とリンゴのサラダ。
「日本は色んな種類のドレッシングがありますよね。イタリア料理のサラダは、塩とお酢、オリーブオイルをかけるだけなんですよ。サラダにフルーツを使うことも多いですね」

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メインは、イカ詰めのトマトソース添え。イカゲソ、卵、パン粉、にんにく、塩コショウを詰めて、トマトソースをかけていただきます。日本のイカメシと形状は一緒なのに、タレと中身が違うだけで180°ちがう料理に。

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デザートは、お米をミルクで煮てつくるというライスケーキ。KitchHikeでもよく作っているのだそう。ツヤツヤの見た目、モチモチの食感・・・ですがお米の匂いは全くなく、言われなければ気付かないでしょう。

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キアラさんお気に入りのデザートレシピ本。キアラさんのブログで見かけたデザートも発見!

ちなみに、キアラさんの得意なデザートは、みんな大好きティラミス。ですが、日本でも食べられるものなので、注文がないかぎりメニューにはいれていないそうです。ざ、残念・・・!!取材班も本気で悔しがりました。リクエストも受け付けているそうなので、気になる方は、オーダーしてみてくださいね。

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日本語もかなりお上手なキアラさん。初対面とは思えないほど、会話が弾みます。ここで聞きたかった、イタリアと日本の文化を違いについてお話を聞いてみました。

「日本に初めて来たときは、電車の時間がすごく正確なことと、電車内が静まり返っていることに驚きました。

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でも最近は日本の感覚に慣れてきたみたいで、この間イタリアで電車が遅延したとき、日本と同じ感覚でチケットを払い戻してほしいと駅員さんに迫ったんです。すると『僕のせいで遅延しているわけじゃないんだから!』と怒られてしまいました。日本人の友人に話すと、ありえないと言われてしまうんだけど、イタリアでは全額払い戻しされない時もあるんですよね」

遅延で払い戻しされない時もある?!たしかに、日本では考えられないですね。気になるイタリアの出会い事情はどうなのでしょうか?

「イタリアでは、挨拶をするみたいに『美人だね』と話しかけてきます。でもそれは日常茶飯事で、全くいやらしいかんじではないんです。たとえば、ラテを買いにカフェに行くと、バリスタに『これが僕の気持ちだから』とハートのラテアートが書かれたラテを渡されたり(笑)日本と違うのは、やり方がロマンチック、という点だけだと思いますね」

う、うらやましい。日本の男性にももっとロマンチックになってほしいものです。ボーイズビーロマンチック。

初めて会う人だからこそ、素直な反応を知ることができた。

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食後は、キアラさんがイタリア語と日本語でつけているレシピブックを見せてもらいました。ぎっしりと書き込まれたレシピの中には、日本の肉じゃがなどのレシピもちらほら。最近では、オリジナルの日伊創作料理をつくったりもするそう。

そんなキアラさんの料理の腕前は、レストランのようなCOOKページを見れば一目瞭然です。でも実は、大学生になり一人暮らしをするまでは食べる専門で、料理の経験もほとんどなかったそう。

「もともと美味しいものが大好きだったから、美味しいものを食べたい一心でつくるようになりました。実家の母に聞いたり、自分で調べながら試行錯誤していくうちにどんどん上達して、レパートリーも増えていったんです」

美味しい料理をつくるには、いろんなレシピに挑戦することと、自分の料理に対して様々な角度から意見をもらうことだとキアラさんは言います。

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「友人のために料理を作る、そんな機会がもっと増えればとKitchHikeをはじめたけど、実際に初対面のHIKERに料理をふるまってみると、想像以上の収穫がありました。KitchHikeしに来るHIKERたちは、年齢、職業、育ってきたバックグラウンドもバラバラです。だからこそ、友人らとはまた違い、客観的でリアルな反応をしてくれるんです。自分の料理に対してのより素直な反応を見られるのも、KitchHikeの醍醐味ですね」

自分ひとりのためには作らない手の込んだ料理も、HIKERの存在があるからこそ挑戦できるKitchHikeは、料理の幅を広げる絶好の機会のようです。

「一緒にイタリアの家庭料理をつくりたいというHIKERさんも多く、そうして日本人に受け入れられていく様子を見ているうちに、新しい目標が芽生えてきました。それは、自分のレシピ本を出版して、より多くの人にイタリアの家庭料理を楽しんでもらうこと。今すぐ、というわけにはいかないけど、パスタやラザニア以外にも豊富にある美味しいイタリア料理を知ってもらいたいんです。イタリアの家庭料理を、もっともっと日本のみなさんに届けたいですね」

一つのテーブルを囲むことは、一番身近な旅なのかもしれない。

何気ない「やってみよう」から、HIKERとの触れ合いを通して新たな目標を見つけたキアラさん。人気COOKの彼女なら、夢への道のりもそう遠いものではなさそう。

お店と客という関係性を越えてネイティブな料理を一緒に食すことは、新たな文化との出会いそのもの。KitchHikeは、満腹感だけを満たすものではありません。
バックグラウンドの異なる異国の人間同士が食卓を囲み、文化を共有し合う。それだけで、今まで気付かなかったさまざまな物事を知るキッカケになるのかもしれません。時として、知らない自分に出会えたり。
KitchHikeは、”食”によって一つのテーブルを”異国”へと変貌させる素敵なサービスなのだなあと、食べ過ぎを反省しながらなんとも言えない喜びを噛みしめる帰り道なのでした。

(構成・宮田愛子/写真・林直幸/)