映画館に、お化け屋敷。レンタルの常識が変わる「スペースマーケット」

結婚式場から古民家、映画館やお寺、球場やお化け屋敷までもレンタルできるウェブサービス「スペースマーケット」。カーシェアリングと同じように、自分が持っているスペースを使っていない時間に他の人に貸出ができる同サービスは2014年4月より始まり、現在では3800件を越える空きスペースが登録されている。(2015年11月取材時時点)

そのスペースマーケット内で、オーナーとして実際にスペースの貸し出しを行っているのが、田中直史さん。田中さんの物件は千駄ヶ谷にあり、1ヶ月に8〜9回ほど貸し出しをしているのだという。今回は、田中さんにスペースマーケットを始めた経緯を含め、お話を聞いてみました。

8割のライスワークと、2割のライフワーク

――スペースマーケットを始めようと思ったきっかけを教えて下さい。

田中:僕は元々IT系企業で働いていたのですが、4年前に独立しました。現代はインターネットが普通に使われ、個人がメディアになる時代。既に色のついた組織ではなく、まっさらな状態から自分で物事を始めたいと思ったのが独立するきっかけでした。

現在は8:2のバランスで仕事をしているのですが、8割は”ライスワーク”。自分が食っていくため、生活していくためにお金を稼ぐ仕事ですね。今はウェブ系の仕事をしているので、そちらをライスワークとしています。

それに対して、残り2割が”ライフワーク”。こちらは特に利益を追求するのではなく、自分の好きなことをして社会に何か良いことをしていこうと思ってしている仕事です。そのライフワークで、僕は皆が集まれるような場所を作りたかった。そのために千駄ヶ谷に場所を作ったんです。それが、スペースマーケットを始める前までの経緯ですね。

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スペースマーケットで貸し出している部屋は、千駄ヶ谷駅から徒歩5分程のところにあります。内装はすべてDIYで作ったんですよ。表側はテーブル、裏側はホワイトボードにしてアイディアをそのまま書ける机を作ったりなど、利用者が使いやすくなるようにと自分たちも楽しみながら作っています。広さは33㎡なので10坪くらいかな。リアルな場所を自分で0から作っていくというのは、やっぱりおもしろいです。

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場所作りをはじめたのは2年ほど前からなのですが、スペースマーケットに登録したのは千駄ヶ谷の部屋を借りた1年後でした。
それまでは、そのスペースでヨガ教室やアスリート向けの講習会などを自分で企画して主催していたのですが、しばらくするうちに、これを1人で全部回すのはなかなか大変だなと感じはじめ…どうしようかと考えていたところ、友人からスペースマーケットを教えてもらいました。

軽い気持ちで登録したところ、想像以上にみなさんが喜んで使ってくれたんです。驚いたのと同時に、とても嬉しかった。おもしろい人達との出会いや、貸した人の笑顔が見られるスペースマーケット、始めてよかったなぁと思います。

――自分1人では不便だったことを便利にしてくれたのが、スペースマーケットだったんですね。

田中:そうですね。使おうと思った理由としてもう1つ、僕がスペースマーケットのビジョンにすごく共感した、ということもあるんです。おこがましいかもしれないけれど、僕もスペースマーケットの理念と同じようなことを昔から考えていました。

僕はスペースのシェアを通して、”樹”を作りたかったんです。自分が作った樹でたくさんの鳥が巣を作って、飛び立っていくような場所が作りたかった。それに対して、スペースマーケットは僕らみたいな樹をたくさん集めて”森”を作ろうとしていた。僕の考えていることと、スペースマーケットの考えていることが偶然にも合致したから、とても相性が良かったんだと思います。僕にとってスペースマーケットとの出会いは、とても幸運なものでしたね。

ウェブサービスだからこそ大切にしたい、「人」を意識したやりとり

――初めてスペースマーケットを通して貸し手が見つかった時は、どうでしたか?

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田中:「あ、申し込みきた!」っていう驚きと「本当に来るんだ、どうしよう…」という困惑がありました。
スペースマーケットを始める1年前から自分で場所の貸し出しはしていたので、マニュアルもあって大体借り手のしたいことは分かっていたつもりだったのですが、初めの1回目はどうやり取りすればいいか分からなくて…楽しくもあり、ドキドキもあり、という感じでした。結果うまくいったので、よかったです。

――では、申し込みから使用後の鍵返却まで、全く顔を合わせずに完結してしまうということですか?

田中:現在は内覧時と鍵の受け渡し時に、お客様と実際に会うようにしています。当初は共通の場所に鍵を置いて、利用時にそこから出してもらい、使用後に同じ場所に返却してもらう、という形をとっていたのですが、ちょっとそれもどうなのかな…と考えるところがありまして。

インターネットを介するとクリックひとつで何でもできてしまうので、その先にいる購買者や提供者の顔を見ずに行なう購買行動がすごく多いんですよね。
僕はできるだけお客様の役に立ちたいと思っていますし、良い関係を築きたいと思っているのですが、実際に顔を合わせないと、あまり良い関係性は作れないですね。
顔が見えないがために相手の求めていることを100%提供できない、という場合もあるので、内覧という形で直接顔を合わせるようにしたのです。

興味深いことに、実際に会ってから貸し出しをしてみると、利用状況が良くなる傾向がありました。顔を合わさずに貸し出した時は、持ち主の顔が見えていない場所だからか、清掃が雑だったり汚い使われ方をされたり…ということもありました。

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また、実際に会うと期待値のコントロールができるので、お互いの満足度も高いとおもいます。例えば、「プロジェクター」と一言で言っても、大きいものから小さいものまでありますよね。僕が文面で備品にプロジェクターがありますと書いても、相手が想像しているものはすごく本格的なものかもしれない。

一度も内覧をしていない状態だと、そのギャップにがっかりしてしまい期待を裏切ってしまうことになるんです。そうしたことを防ぐためにも内覧を設け、お互いにとって貸し借りが良い方向へ行くようにと心がけています。

ウェブサービスだけど、人がしっかり介在しているということを示してあげることが重要だと思うんです。そうすれば、結果的に良い循環が生まれるようになる。実際に使っていてすごく興味深いですね。

――現在の予約数はどのくらいですか?

田中:今のところ、土日はすべて埋まっていますね。最近は月8〜9回ほど、季節要因もありますが毎週稼働できるように準備をしています。使用用途としては、企業やプロジェクト単位のミーティングが2割、仲間内でのワークショップや講習会が3割、ちょっとしたパーティーが2割くらいで、あとは映画鑑賞会やヨガ教室などですね。

ゲームのニコ動中継やお子様が集まるクリスマスパーティーで使っていただいたこともありました。自分自身のライフワークの面でも、大切な人達と一緒に過ごせる場所を提供できるというのは幸せなことですね。

――いままでで、予想外の使われ方ってありましたか?

田中:キックボクシングのプライベートレッスンですかね。騒音的には軽い運動くらいなら大丈夫なのですが、さすがにこれは予想外でした。他にも「居合」の教室をしたいという方がいらっしゃったんですが、予定が合わず結局お会いすることが出来ませんでした。これはちょっと後悔しているので、またいつかお会いしたいなと思っています。

貸し手と借り手、お互いの合意こそが良いシェアになる

――ライフワーク・ライスワークのバランス、そして場所づくりに対するお話がありましたが、そういったことはいつごろから考えるようになったのですか?

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田中:場所づくりをしたいと考えたのは2年前で、バランスに関しては独立した4年前からですね。
小さいころは転勤族で、幼稚園から小学校3年生までチェコのプラハに住んでいました。初めて違う国に降り立った時の高揚感や、西洋建築に対する憧れみたいなものがどこかで刷り込まれていたようで、そこで影響を受けたのか、非日常な空間に対する思い入れがあったのだと思います。
最初は、みんなが集まる場を作ろうと思ったんです。そこで、まずは女性にインタビューをしてどんな空間がいいのかを理解するところからはじめました。

――なるほど。今後は自分が作りたい場を増やしていくのか、それとも今ある場所をさらに充実させるのか、どちらをお考えですか?

田中:前者です。もちろん今ある場所の充実もさせたいのですが、実はいま長野県白馬村に同じような場所を作る準備をしているんです。

すごく田舎だから、どんな用途でも使えるフリースペースがない分、いろいろな活用方法があるのではないかと思い、使われていない倉庫をDIYでレンタルスペースに変身させているところなんです。
プラマイゼロレベルで、リソースを投下することで良い場所がたくさん増えていけばいいというやり方なので、事業化というよりも、場所と人を作ってみんなが幸せになってくれることは、お金には変えられない喜びなんです。

――場を作っているプロセスの楽しさと、実際にその場を使ってくれている人たちを見た時、2回の楽しみがありますね!

田中:そうなんです、それが最高なんですよ。もし自分が2年前に空間づくりをしていなかったら会えなかった人もたくさんいるので、それを考えてもすごく幸せですね。

――空間・場所のシェアを通じて、自分自身に変化はありましたか?

田中:いろいろな人との関わりを通じて、変わったのは物の値段に対する価値観です。シェアを用意する側としてはどんなものにもそれなりにコストがかかっているので、提供する価値とそのコストのバランスを考えていかなければならないということを感じました。

顧客の満足度はすごく大事で、丁寧なやり取りだとかホスピタリティは重要なのですが、シェアをするということの良い部分は、あくまでも等価交換だということです。

「僕はこの価値をこの値段で提供するので、一生懸命頑張ります」と。だから、お互いに交換したくないと思えばしなければいいんです。お互いの条件にしっかり合意した者同士でシェアしていくことの考え方こそが、正しい経済なんじゃないかなと思いますね。

ユーザー視点に立たずに単純に安さだけを追求する観点しかないと、シェア系のサービスはなかなか使えないと思います。あくまでも、双方のシェアなんです。そのためには、コミュニケーションが大事。シェアサービスに、コミュニケーションは必須の要素なんです。

この記事の登場人物
  • 田中直史
    IT企業勤務後独立し、ウェブ系の仕事をする一方でライフワークを満喫。現在は長野県白馬村に多く足を運んでいる。
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