1 宿泊を伴う空間シェアで問題となる法規制-必要となる許可や届出とは
前回の記事で指摘したとおり、民泊を取り巻く環境は、非常に厳しい局面ではありますが、このようなタイミングは逆にチャンスにもなり得ます。元々、民泊ビジネスは、仕入れ(駅近物件のなるべく賃料の安い物件を契約すること)が命とも言われていた中で、右肩のぼりの状況では年々仕入れが困難となり、損益分岐点が上振れすることによって新規参入のハードルを上げてしまっていたところがありました。ところが、廃業する事業者が多数出てきている状況は、再度、良質で適正な賃料の物件を仕入れるチャンスが出てきたことを意味します。
それでは、新たに日本国内で宿泊を伴う空間シェアを行う場合、どのような許可や届出が必要となるのでしょうか。
本稿では、民泊を含む宿泊を伴う空間シェアに関わる日本の法制度の概要をざっくりと解説し、個別の法制度やそのほかの法的問題点に関しては、次稿で詳しく解説していきたいと思います。
2 3種類の制度- 旅館業・ 特区民泊 ・ 住宅宿泊事業
宿泊を伴う空間シェアを行いたい場合は、イベント開催時に自治体の要請等により自宅を旅行者に一時的に提供するいわゆる「イベント民泊」などの例外を除き(イベント民泊については後ほど解説します)、3つの制度の利用が考えられます。
それが、「旅館業法」、「国家戦略特別区域法」、そして、「 住宅宿泊事業法 」に基づく各制度です。
1 従前の法制度と問題点
国内において民泊がはじまった当初、民泊は「旅館業」に該当すると解釈され、旅館業法上の許可が必要とされていました。なぜなら、旅館業法上、「施設を設け」、「宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業」(第2条第2項~第4項)が旅館業と定義され、非常に広い概念が同法によって規律されていたためです。
しかし、当時、旅館業法上の許可取得には、様々な高いハードルがありました(現在は昔よりは規制緩和が進んでいます)。
まず、許可を取得するためには、多数の構造設備の基準をクリアする必要がありました。例えば、客室の延床面積基準、玄関帳場等に関する基準、入浴設備の基準など、法令や条例で様々な基準が設けられており、旅館業法上の許可を取得したいと考えた場合には、諸条件を記載した申請書等を持参し、事前に保健所等各自治体の窓口へ相談する必要がありました。しかし、気軽に自宅を用いて民泊を始めたいと考えるような人々にとっては、このような高い構造設備基準を満たすことは困難であり、大きな参入障壁となっていました。
また、民泊には住居が用いられることも多いにもかかわらず、建築基準法上、「ホテル・旅館」は、住居専用地域に建築することは認められておらず、さらに、床面積の合計が一定の基準を超える場合には、用途変更の建築確認手続が必要になる等、用途地域による制限も大きなハードルとなっていました。
そのような状況下で、旅館業法上の許可を得ずに営業する者が多く現れ、その結果、いわゆる「違法民泊」が問題視されるようになりました。同時に、外部不経済といわれる近隣住民からの苦情やごみ捨ての問題などが社会問題となりました。
以上のとおり、民泊は、旅館業法とはコンセプトやビジネスの出発点が全く異なるにもかかわらず、その規制対象とされ、トラブルも多発したことから、健全な民泊サービスの普及のために、法改正の必要性が声高に叫ばれるようになりました。
2 民泊のための新たな法制度
そこで、2013年12月に、「国家戦略特別区域法」(平成25年法律第107号)が施行され、2014年3月から国家戦略特区に限り、都道府県知事の認定を受ければ、旅館業法の許可が不要(ただし、6泊7日以上)とされ、その後2016年10月から日数制限が緩和されて2泊3日以上とされました。
これが、いわゆる「特区民泊」です。
この特区民泊制度も、一定程度は利用が進んでいます。2019年度末(2020年3月末)時点では、2,116事業者が参入し、12,035居室が特区民泊として認定されるに至っています。
しかし、特区民泊制度を活用するためには、特区に指定されている自治体において民泊条例を制定する必要があるなどのハードルがあり、民泊が社会インフラとして普及するには更なる規制緩和が必要でした。また、実態としても、旅館業法や特区民泊の制度に則らない宿泊業が全国に広がってしまっていたという問題もありました。
そこで生まれたのが、2018年6月に施行された、「 住宅宿泊事業法 」です。
住宅宿泊事業法 は、官民共同のルール作り(民間主導のボトムアップの動きに、政府が後ろ盾を付けるアプローチ)が特徴で、シェアリングエコノミーの分野に限っていえば、このような取組みは世界初でした。
3 イベント民泊とは
なお、イベント民泊とは、ⅰ)年数回程度(1回当たり2~3日程度)のイベント開催時であって、ⅱ)宿泊施設の不足が見込まれることにより、ⅲ)開催地の自治体の要請等により自宅を提供するような公共性の高いものについて、「旅館業」に該当しないものとして取り扱い、自宅提供者において、旅館業法に基づく営業許可なく、宿泊サービスを提供することを可能とするものです。
イベント民泊は、多数の集客が見込まれるイベントの開催時に宿泊施設不足を解消する有効な手段であり、宿泊者が当該地域で夕食を摂ったり、翌日に当該地域を観光することも期待できるため、地方創生の観点からも有効とされています。
イベント民泊に旅館業法の適用がないのは、旅館業に該当する「営業」が、「社会性をもって継続反復されるもの」に限定されているからです(旅館業法Q&A Q5)。宿泊者の入れ替わりがない態様での宿泊は、感染症の流行等、公衆衛生に関する問題が生じるリスクが低いと考えられること等から適用除外とされています。
イベント民泊を実施するかの判断は自治体が行うため、自宅提供者は自治体の要請に基づいてイベント民泊を実施しますが、イベント民泊に実施にあたっては、広くその存在を周知するとともに、効率的に宿泊予約を受け付ける必要があります。しかし、自治体単独や自宅提供者個人では、十分な周知や効率的な予約受付は困難であることから、前回解説した「民泊仲介サイト」との連携が重要になると考えられます。実際に、民泊仲介サイトのWEB広告による募集が行われた事例があるとされています。
3 3つの制度の特徴の比較
下の表に3つの制度の特徴を簡単にまとめています。
* 各自治体の条例により、さらに期間が制限されている可能性があります。
3つの制度は、それぞれ民泊を行うことができる地域や、条件、手続が異なります。
新たに宿泊を伴う空間シェアを行おうとする者は、自分がやりたい事業の態様に応じて、いずれの制度を利用するか選択することになります。
次回は、3種類の法制度の内容をさらに具体的に解説していきたいと思います。