2018年9月7日、東京都千代田区のNagatacho GRIDで開催されたシェアリングエコノミー協会主催『SHARE SUMMIT2018』。官民交えた多彩なゲストによるパネルディスカッションで、シェアリングエコノミーの今と未来について熱い議論が交わされました。
第2部『SHARE × HOME・STAY 〜民泊・ゲストハウス・旅館経営から考える〜』では、民泊とライバル関係にある旅館業界とゲストハウスの運営者、そして観光庁観光産業課長の3者による現時点での民泊の課題と、民泊がなしうるシェアリングエコノミーの可能性について探りました。

登壇者:
一般社団法人日本旅館協会副会長、一般社団法人ハットウ・オンパク代表理事 鶴田浩一郎氏
NPO法人 earthcube japan代表理事 中村功芳氏
国土交通省 観光庁 観光産業課長 鈴木貴典氏
司会進行:
シェアリングエコノミー協会事務局長 佐別当隆志氏

家主居住型の宿は、多くない?

佐別当:民泊にまつわる1年前の環境は、民泊事業主・不動産賃貸業界・旅館業界がそれぞれの立場からバチバチの議論を交わしていて、それを観光庁がどうまとめていくかという状態で、このメンバーが同じ壇上に揃うことはなかったでしょう。2018年6月15日に住宅宿泊事業法いわゆる民泊新法が施行されたからこそ、このメンバーで集まることができたし、今だから話せることがあるのではないか、ということでお集まりいただきました。まずは、自己紹介からお願いします。

シェアリングエコノミー協会事務局長 佐別当隆志氏

シェアリングエコノミー協会事務局長 佐別当隆志氏

鶴田:日本旅館協会の副会長をするかたわら、地域活性のNPO法人の代表理事もしています。今は旅館協会の建前と地域で本来あるべき民泊の両方を知る立場にいて、自分の中でも引き裂かれている状態です。民泊新法ができるとき、観光庁にとって旅館協会はプレッシャーになった業界だったと思いますが、不動産賃貸業界の言いなりになってしまうと、本来の民泊とは違うものになってしまうのではないかという懸念がありました。

一般社団法人日本旅館協会副会長、一般社団法人ハットウ・オンパク代表理事 鶴田浩一郎氏

一般社団法人日本旅館協会副会長、一般社団法人ハットウ・オンパク代表理事 鶴田浩一郎氏

中村:本当の豊かさとは何かを考えるNPO法人earthcube japanで代表理事をしています。地域と生きるゲストハウス開業合宿や地域でなりわいをつくる合宿など、地域の本質的な魅力を発信するための拠点としてゲストハウスをつくるお手伝いをしています。また、瀬戸内のディープな旅行を提案するせとうちディープラインプロジェクトなど、地域のあまり知られていない豊かな文化や生き方を発信する活動も行なっています。

NPO法人 earthcube japan代表理事 中村功芳氏

NPO法人 earthcube japan代表理事 中村功芳氏

鈴木:2014年から2年間、四国運輸局在任時に地域を巻き込んだ古民家の宿づくりを経験しました。民が人を泊まらせるのが本来の民泊だと思いますが、今は住宅に泊まれば民泊という流れもあり、宿の形態で分けて考えないといけないと思っています。民泊新法が施行された時点の届出は約3,000件、そこから毎月数十件ずつ増えていて、8月1日で8,272件登録されています。今後、届出数の動向分析と事業実態を見ていきますが、家主居住型の宿数はあまり多くないと感じています。また、民泊というとトラブルがつきものという良くないイメージが付いていることに課題感を持っています。地域活性に貢献する民泊が増え、それがメディアに取り上げられることでイメージ向上に繋がればと思っています。

国土交通省 観光庁 観光産業課長 鈴木貴典氏

国土交通省 観光庁 観光産業課長 鈴木貴典氏

家主滞在型民泊のメリットは何か?

佐別当:鶴田さんは、旅館協会副会長という立場から、民泊に対してどんな意見をお持ちか聞かせてください。

鶴田:今の民泊で最も供給量が多いのは、アパートやマンションの空き部屋に宿泊するという不動産賃貸業です。民泊がシェアリングエコノミーではなく不動産の空き家対策で良いのか、という思いはあります。一方で、2020年に宿泊施設が足りないところから民泊が始まった経緯があるので、多くの部屋が供給されるなら良いという考え方もある。最初から、民泊とシェアリングエコノミーはボタンを掛け違えていると感じています。家主がいて、ゲストが地域の体験や交流ができるのが民泊の業態なのに、法律でも表現できない部分があった。そこには課題があると思っています。

佐別当:家主滞在型の民泊に対しては、ご自身または業界としてどんなスタンスですか?

鶴田:家主滞在型は文句を言わないというのが、基本的なスタンスです。180日規制については、パリ市がルーズな民泊ルールを制定した結果、宿泊施設が圧迫されたという実例もあります。都市においては、宿泊数規制をするのが世界の趨勢だと聞いています。

佐別当:民泊は、ゲストハウスの競合にもなりえます。中村さんは、ゲストハウスを通してシェアリングエコノミー的な活動をされていますが、民泊をどう捉えていますか?

中村:家主滞在型の民泊は、やったほうが良いと思っています。なぜなら、家庭の食卓が良くなるとそこに人が帰ってくるから。海外のゲストが、実家が一つ増えたような感覚でリピートして来てくれたら街も活性化する。怖いのは、家主不在型の民泊で街が壊れること。そもそも、民がゲストをおもてなししないのは民泊ではないですよね? 家主がいない空き家活用型と、家主滞在型は分けたほうがいいと思います。今後2年間で、多くの事業主が民泊に参入すると思いますが、その9割は10年かけて消耗していくと思う。それは今の経済システムでは仕方のないことですが、その状況を脱出する方法がシェアリングエコノミーではないでしょうか。

佐別当:民泊新法施行後に様々な意見が寄せられていると思いますが、この後、観光庁がどうするか注目が集まっています。鈴木課長はどのように動いていきますか?

鈴木:民泊新法は、いろんな人の意見を聞く中でなんとかたどり着いたルールの形だと思っています。一定期間はこのルールでやってみて、必要な部分は改善していく。ただ、大きな枠組みは実態を見てから考えていくものだと思っています。現在、新規のホテル着工数が増えていて、2020年に宿泊施設数が足りないと思われていたのが必ずしもそうではない状況になっています。一方で、長期滞在する訪日外国人は増えているので、現在のかたちの民泊も必要だと思います。今後、民泊をどう健全に発展させていくか、地域貢献も含めてどうすれば良いかたちになるかは、現場を見ながら考えていくべきだと思っています。

供給過多時代に生き残る宿は?

佐別当:この後、民泊は2〜3万件まで増加する可能性もあります。そうすると、逆に部屋が余るという予想もできます。別府市旅館ホテル組合連合会とAirbnbの提携を発表する(http://tsite.jp/r/cpn/airbnb/news/20180826.html)など旅館業界にも新たな動きが出ていますが、部屋が供給過多になったときに生き残るのはどんな宿だと思いますか?

鶴田:主要都市は2020年までに万室単位で部屋数が増えると言われていますが、足りないのは地域資源を生かして街の活性に貢献する宿です。自分のライフスタイルとして家主滞在型の宿を運営する人や、地域と交流する宿は足りていません。また、地域と観光客のクロスポイントになるコミュニティカフェにも様々な規制がある。個人的に、このルールはもう少し緩和して欲しいと思っています。

佐別当:ゲストハウスを運営している中村さんから、地域に貢献する宿泊施設が生き残るチャンスという件でご意見を聞かせてください。

中村:宿の運営者が地域に愛情を持って、地域の人が喜ぶことを考えればうまくいくと思います。民泊運営者の暮らしが、これからを担う子どもたちの憧れになれば持続可能な地域・宿になるのではないでしょうか。

鈴木:民泊新法ができたことで、宿泊産業への参入障壁は下がりました。今後は、地域やゲストに対して愛情を持って真摯に宿泊事業に向き合う人が勝ち残っていけるようなルール作りが必要だと思っています。

佐別当:民泊新法は、住居専用地域で泊まることを実現した点で画期的です。家主不在型民泊を否定しているわけではありませんが、食卓が楽しくなる宿、地域貢献をする宿といったビジネスモデルもある。シェアリングエコノミーによって、人の幸せが増加するような宿の仕組みになれば良いと思います。